本シリーズ前回の記事 Gazebo/MoveIt のための 3D モデリング(10)部品作成編 で洗濯機全体の形状が完成しました.
まずはエクスポートするメッシュの確認も兼ねて,可動部分のない一番単純な Gazebo と MoveIt それぞれにおける洗濯機モデルを作ることを目標として,今回は CAD( 本記事では Rhinoceros )の形状データに色を付けるとともに Gazebo や MoveIt で利用できるデータ形式にエクスポートする手順を紹介します.
次の図は今回エクスポートするデータを Gazebo と MoveIt のシミュレーションモデルに組み込んで表示させた様子で,次回の記事のゴールになる予定です.
Gazebo/MoveIt のシミュレーションモデルにはディスプレイ表示用の visual メッシュと干渉チェック用の collision メッシュの2種類のデータが必要です.今回は大きく分けて次の ① ② ③ の 3種類 のデータを用意します.
ひとまず可動部分のない Gazebo および MoveIt のシミュレーションモデルを作成しますので,これまで作成してきた洗濯機モデルの閉じたポリサーフェス(=ソリッド)をそのまま全て選択して「選択オブジェクトをエクスポート(Export)」で干渉チェック用の STL メッシュデータファイルとしてエクスポートします.
ファイルの種類で「STL (Stereolithography) (*.stl)」を選択します.ファイル名はメッシュモデルの乗るシミュレーションモデルのリンク名にすると分かりやすいので今回は「base_link.stl」とします.
「ポリゴンメッシュ詳細オプション」の子ウィンドウが出るので各設定項目は主に下のリストのように今回は設定しました.(図はクリックで拡大表示されます.)
STL メッシュデータの粗密やデータ量を調整したい場合は主にこれらの設定値を調整します.
「STLエクスポートオプション」ではデータ量を確認してデータが大きすぎるような場合には「メッシュを調整」ボタンから再調整して,問題なければ「バイナリ(B)」でエクスポートします.
エクスポートした STL ファイルの内容を確認するにはフリーソフトウェアの MeshLab にインポートするのが良いのではないかと思います.
MeshLab は Windows・Mac・Linux のどのプラットフォームにもインストールできますので便利です.
また Windows であれば「3Dビューアー」,Mac であれば「プレビュー」でも STL ファイルを表示することが可能です.
エクスポートした STL ファイルに洗濯機全体の形状データが含まれているように表示されるかと思います.
干渉チェック(collision)用の STL ファイルへのエクスポート手順は以上です.
ディスプレイ表示用の visual メッシュは色を付けない単色での利用も可能ですが,せっかくなのでカタログから推測して次のリストの色分けをしてみます.
Rhinoceros のデフォルトではポリサーフェスで1つにまとまっていると色や反射率,透過率などの設定が含まれるマテリアル設定が1つしか反映されないので,色ごとのポリサーフェスやサーフェス,それらのグループに分解します.ソリッド(=閉じたポリサーフェス)の状態は残しておきたいので色付け用のレイヤを作成してそのレイヤに洗濯機モデル全体をコピーしたものを分解,色付けします.
色はオブジェクトの「マテリアル」を設定して付けます.
色ごとに分けたオブジェクト(=ポリサーフェスやサーフェス,グループ)を選択してから右クリックして「オブジェクトのプロパティ(S)」を表示して「プロパティ: マテリアル」タブを開きます.
マテリアルの設定時に気を付ける点があり,「金属」系の色は後の項目でエクスポートする Collada(DAE)ファイルや Gazebo,MoveIt のディスプレイ上では反映されなく,意図しない,おそらくエクスポートしたオブジェクトのあるレイヤー色か黒などに表示されてしまうので「プラスチック」系のマテリアルを使用して各色を指定するのが良さそうです.
また,Rhinoceros 上での表示形式を「レンダリング」にすることでマテリアルが反映された表示になります.
上の図では 「gray-white」を選択した例を示していますが,他の「light-gray」「dark-gray」「blue-gray」についても同様にプラスチック系マテリアルの色を調整して設定します.
MoveIt シミュレーションモデルの URDF ファイルから表示用(visual)メッシュとして使うために,マテリアルを設定して色付けしたモデル Rhinoceros から Collada(DAE)ファイルとしてエクスポートします.
Collada(DAE)のメッシュデータには色や単位の情報も含まれるので全色分のオブジェクトを一緒くたに選択して「選択オブジェクトをエクスポート(Export)」でエクスポートします.
ファイルの種類に「COLLADA(*.dae)」を選択します.ファイル名はメッシュモデルの乗るシミュレーションモデルのリンク名にすると分かりやすいので今回は「base_link.dae」とします.
エクスポートした DAE ファイルの内容の確認は Mac だと「プレビュー」で右の図のように行えます.
FreeCAD は Windows や Mac,Linux で利用でき,DAE データも表示することができます.
FreeCAD の操作感はあまり良いとは言えないのですが様々な形式の 3D データが読み込めるのでデータ確認には非常に便利です.
今回,洗濯機操作部の丸いボタンに金属系マテリアルを設定して Collada(DAE)ファイルとしてエクスポートして利用しようとしましたが金属マテリアル部分が DAE メッシュとしては黒色になってしまって金属的な表現にはなりませんでした.
今回筆者の調べた範囲においては glTF(ジー”エル”ティーエフ) 形式とそのバイナリ形式の glb 形式が 3D モデルのファイル内に金属やガラスなどのマテリアル表現の情報も含まれる形式とのことでしたので Rhioceros にこれらの形式をエクスポートするプラグインを導入し,丸ボタンに金属マテリアルを適用したものを glb 形式でエクスポートして,Web にある glTF ビューア で表示してみたものが次の図です.
ボタンの部分が金属的な表現になっているように見えます.
ではこの glTF や glb 形式の 3D モデルファイルが Gazebo や MoveIt で使えるのか,といったところが ROS ユーザとしては気になるところです.Gazebo や MoveIt はレンダリングエンジンに OGRE(Object-Oriented Graphics Rendering Engine) を利用しています.
OGRE の現時点で最新リリースが 2022年2月9日 リリースの 13.3 です.OGRE v13.3 では glTF2.0 形式の情報を利用した金属や布などのマテリアル表現が可能になったとのことです.
Gazebo や MoveIt でも OGRE で新しくリリースされた豊かなマテリアル表現機能を使えるように実装が進んだら,今回上手くいかなかった金属表現もできるようになるのかな?と期待しています.
Gazebo シミュレーションモデルの SDF ファイルから表示用(visual)メッシュを色付きで使うためには色ごとにメッシュを分けた STL データファイルに対して SDF ファイル内で色情報を指定する必要があります.
そのために Rhinoceros からは色ごとにオブジェクトを選択して各色の STL ファイルとしてエクスポートします.
一般的な STL ファイルには色情報が含まれませんので Rhinoceros 上で色を付ける必要性はないのですが,前の項目で既に色ごとに分けて色付けしたオブジェクトがありますので,ここでは「色で選択(SelColor)」でそれぞれの色を選択して「選択オブジェクトをエクスポート(Export)」すると楽にできます.
STL エクスポート自体のの手順は先ほどの「干渉チェック(collision)用 STL メッシュデータのエクスポート」内で行った手順と基本的には同じですが,色分けした,ソリッド(=閉じたポリサーフェス)ではない,開いたポリサーフェスやサーフェスをエクスポートすることが出てきますので,その場合は「STLエクスポートオプション」にて「開いたオブジェクトをエクスポート(E)」のチェックを入れる必要があります.
ファイル名はメッシュモデルの乗るシミュレーションモデルのリンク名に色名を足しておくと分かりやすいので,今回は下のリストの各ファイル名で 4色分 4つのファイルとしてエクスポートしました.
複数に分けた STL ファイルを MeshLab にインポートすると MeshLab 内のレイヤとして表示されるのでレイヤの表示・非表示を切り替えるなどしてメッシュの確認を行うと良いのではないかと思います.
今回の記事はここまでです.
本シリーズ次回の記事は
「Gazebo/MoveIt のための 3D モデリング(12)Gazebo や MoveIt の静モデルの作成」
として,今回エクスポートしたメッシュデータファイルを Gazebo や MoveIt のモデルファイルに組み込んで表示する様子を紹介する予定です.